2019-20 猛威を振るったコロナ禍に翻弄され、初のチャンピオンシップが霧消する

bjリーグ時代にチームを3連覇に導いた
天日謙作ヘッドコーチが10季ぶりに復帰
2019-20シーズンは、あの名将が10季ぶりの復帰を果たした。天日謙作が再び、エヴェッサのヘッドコーチ(HC)に就いたのである。2009-10シーズン限りでの退団後は芦屋大学バスケットボール部でHCを務め、2016-17シーズンからB2の西宮(現神戸)ストークスを率いて、1季目にチームをB1昇格に導いている。アシスタントコーチ(AC)には天日の下で西宮のACを務めていた竹野明倫、秋田ノーザンハピネッツをはじめ、日本でのプレー経験が長いルーベン・ボイキンが現役を退いて就任した。“走るバスケ”を掲げて、2005-06のbjリーグ初年度から3連覇を果たした天日HCは、復帰にあたって基本形は踏襲しながらも、時代に合わせた調整を施したスタイルで戦うと宣言した。
「昔はいっぱい走っていましたが、今はあのころとはちょっと違います。でも運動得ようが多くて、選手がコート内を行き来する回数が多いゲームのほうが、お客さんは楽しいと思うんです。お客さんの声が僕らの力になるので、そういうバスケットをしたい。頑張って、アップテンポなゲームにしようと思います」
退団した選手はエグゼビア・ギブソン、トレバー・ムバクウェ、木下博之、根来新之助、長野誠史、京都ハンナリーズに期限付き移籍していた綿貫瞬が完全移籍に移行。替わって外国籍選手はリチャード・ヘンドリックス、ショーン・オマラ、日本人選手は伊藤達哉、長谷川智也、小坂彰久、そして帰化選手のアイラ・ブラウンが加わった。
外国籍選手は一時は、ペリー・エリスとの契約基本合意を発表した。しかしエリスはその後に出場した試合で負傷し、全治まで治療期間が長くなる見通しだったため、正式契約を見送った。その代わりに獲得したヘンドリックスは走れるビッグマンとの前評判で、ポイントガードの伊藤も前所属の京都でスピードを武器にしたプレーを披露と、天日HCが求めるスタイルに沿った選手の獲得が行われた。
琉球のCS進出に貢献し、経験と実績が豊富な
大物帰化選手、アイラ・ブラウンの獲得に成功
なかでも大きなアドバンテージになると期待されたのがブラウン。日本でのプレーはこのときが9シーズン目で、日本のバスケスタイルは知り尽くしている。前所属の琉球ゴールデンキングスでは、2季連続でチャンピオンシップ(CS)進出に主力として貢献。37歳の年齢と身長が193cmとややアンダーサイズなのが懸念されたが、これまで帰化選手枠を有効活用できていなかったエヴェッサにとって、経験と実績が豊富なブラウンの獲得成功は大きな補強だった。プレシーズンは、9月14~16日の3日間にかけて舞洲アリーナで開催された「関西アーリーカップ2019」に出場。関西圏の5チームと琉球が参加したなかで結果は3位だったがオマラ、ヘンドリックス、ブラウンの新加入選手らが数字を残し、来たる開幕に向けて期待は高まった。
秋田で迎えたシーズン開幕戦を1勝1敗とし、翌週は舞洲に琉球を迎えてのホーム開幕。しかしここで、後にさらなる波乱に飲み込まれることになる、このシーズンを象徴するかのような不測のアクシデントに遭遇した。10月12日に予定した第1戦が、台風の接近によって開催を延期せざるを得なくなったのだ。翌日は天候が回復し、無事に試合を開催。オーバータイムにもつれ込む接戦だったが琉球を下し、このシーズンのホーム初勝利をあげた。
シーズンの折り返し点で21勝9敗の好成績
そのころ、新型コロナが姿を現し始める
前半戦は2度の5連勝を記録するなど順調に白星を積み重ね、シーズン折り返しの30試合が経過した1月25日の時点で21勝9敗。12月は合田怜が全治6週間、ヘンドリックスが全治3週間と診断される負傷を負い、オマラは右手中指骨折で全治2ヶ月の重傷などケガ人が続出。それでも長期離脱するオマラの替わりにカイル・バローンを獲得し、残ったメンバーもそれぞれが奮闘するなどして、12月は6勝2敗で乗り切る。故障者が次々と発生しながらも、この前半戦はBリーグ発足当初に苦戦していた千葉ジェッツ、宇都宮ブレックスの旧NBLの強豪勢からも勝ち星をあげた。メンバーが揃わない戦いのなかでも勝ち抜いたことも含め、Bリーグ4シーズン目を迎えて着実にチーム力が高まっていることを証明した。
しかしちょうどそのころから、新型コロナウィルスが日本でも姿を現し始める。感染者は日ごとに数を増し、死亡者まで発生。日本でもコロナへの警戒感が、時間を追うごとに高まっていった。とはいえ対応を巡っては、相手が未知のウィルスゆえに社会全体が混乱をきたしていた。それはBリーグも同じで、社会情勢を伺いながらレギュラーシーズンを続行。そんななか、他クラブで試合開始直前に感染者が見つかり、すでに観客が入っていたにも関わらず急きょ中止にする異例の事態も起こる。コロナの脅威は、確実にBリーグをも蝕んでいった。
エヴェッサは2月に入って伊藤、合田が相次いでケガに見舞われて長期離脱。主力が抜けて、ガード陣が手薄になってしまった。その穴を埋めたのは、12月に大東文化大から特別指定選手で加わっていた中村浩睦。まだ現役大学生ながら2月以降は全試合に出場し、そのほとんどで20分以上プレー。スターターで起用されることもあった。さらに宇都宮から田原隆徳を期限付き移籍で獲得し、ガードを補った。中村と田原は健闘したが、やはり主力ガードを欠いた影響は少なくなく、この月は2勝5敗と月間で初めて負け越してしまう。
さらに猛威を振るうコロナウィルス
無観客試合に続き、シーズンが打ち切りに
3月を迎えるころになってコロナ禍は収まるどころか、さらに猛威を振るってきた。Bリーグは新型コロナウィルス感染症対策として、2月28日から3月11日にかけてB1およびB2のリーグ戦全99試合を開催延期とすると発表。そのなかには、3月4日にエヴェッサのホームで予定していた島根スサノオマジック戦も含まれていた。それからもホームゲームで予定していた各種イベントの中止を決定するなど、フロントも混乱する情勢のなかでひたすら対応に追われた。そしてリーグは3月11日に、残りの試合を無観客で行うと判断する。この決定を受けて、3月14・15日の島根戦は、舞洲アリーナにひとりも観客がいない異様な空間のなかで敢行された。第1戦は第1Qで30得点を奪い、その勢いのまま105-87で相手を押し切る。翌日の第2戦は先行しながら第3Qに一時は逆転を許すも、終盤に再逆転。第4Qは終始ペースをにぎる展開で93-80で連勝。しかし両試合とも、公式記録の観客数にはゼロの数字が示された。
それから2日後の3月17日に、リーグが3月20日から4月1日の全試合の中止を発表。さらに3月27日には、シーズンの打ち切りを決定。同時に、今季はCSを含むポストシーズンの全試合も中止とすると発表した。これにより、打ち切り前の時点で西地区2位につけ、初のCS進出が視界に入っていたエヴェッサの目標も霧散することになった。
視界に入っていた初のCS進出が霧散
無念の思いを抱えてシーズンが終わる
3月30日には、クラブからシーズン終了の挨拶を発表。そこには安井直樹代表の、無念の思いが綴られていた。「唯一、2019-20シーズンで心残りなのは、皆さまを『クラブ初のチャンピオンシップ』にお連れできなかったことでございます。新体制発表時に皆さまには覚悟を持って誓ったことでございましたので、悔しい思いが抑えきれません。
しかし、この悔しい思いは2020-21シーズンに必ず実現をして皆さまと共に喜びを分かち合えるシーズンにしていきたいと心から思っております。
今は一日も早く新型コロナウイルス感染症が終息し、大阪エヴェッサに関わる全ての方々にも平穏な日々が訪れることを、そして皆さまのご健康を心から願っております」(一部抜粋)
(文/カワサキマサシ)