2013-14 / 2014-15 王朝復興を目指したが、 それが叶わなかった2シーズン

ヘッドコーチの交替に、ロスター全員を
入れ替えと、大胆な改革を行った2013-14
前2012-13シーズンの前半戦は5勝19敗と苦戦したが、折り返し点でNBAのレジェンド、ビル・カートライトがヘッドコーチ(HC)に就いてから事態は好転。後半戦に限ると17勝11敗の好成績で、フィニッシュストロングを飾った。それを受けて迎える2013-14シーズンは、前季以上に大胆なチーム改革を行った。HCの交替ばかりか外国籍選手、日本人選手を含めてロスターも全員を入れ替え。生え抜きの今野翔太もフリーエージェントを宣言し、信州ブレイブウォリアーズに移籍してしまった。
新たなHCとして迎え入れたのは、2010~12年に男子日本代表でアシスタントコーチを務めていた東頭俊典。日本人選手はV3時代にエヴェッサに貢献した石橋晴行、仲村直人、佐藤浩貴が復帰する。ほかには琉球ゴールデンキングスで優勝経験がある実力派のポイントガード澤岻直人に、呉屋貴教、菅原洋介らが新加入。石橋の40歳を筆頭に、全員が30代以上というベテラン揃いのラインナップになった。外国籍選手はケビン・ガロウェイ(前浜松・東三河フェニックス)、ザッカリー・アンドリュース(前新潟アルビレックスB.B.)、ディリオン・スニード(前岩手ビッグブルズ)ら日本での経験があり、20代半ばから後半の脂がのった選手を獲得した。
HC職が初めてとなる当時36歳の青年指揮官は、シーズン開幕を前にこう胸を高鳴らせた。
「今季のテーマは、『融合』と『温度』です。まずは日本人選手、外国籍選手の『融合』。コート上でお互いのバスケット観や文化の違いを乗り越え、協調性あふれるチーム作りを目指します。また戦術的にも、近年のアメリカで流行している攻撃的なスタイルと、ユーロリーグを代表とするヨーロッパで多く見られるスタイルを融合した、独自のスタイルを確立したい。またbjリーグ初年度から3連覇した大阪エヴェッサが、昨季は西地区7位と史上最低の成績に終わってしまったことは、重く受け止めないといけない。『温度』とは王者の誇りを呼び覚まし、優勝という高い目標を達成する強い意志のことを指します」
チーム大改革を行ったことで、とくに開幕直後は不安視された。しかしシーズンが幕を開けると、そんな懸念は吹き飛んだ。ホームで迎えた開幕戦でバンビシャス奈良を2連勝で下したのに始まり、6連勝を達成。これはエヴェッサにとって開幕連勝の新記録だった。
このシーズンでエース的存在になったのはガロウェイ。身長201cmの大型ポイントガードでプレーメイクはもちろん、得点能力も高い。10月19日の大分ヒートデビルズ戦では22得点・15リバウンド・9アシストを記録して週間MVPを受賞し、同27日の埼玉ブロンコス戦ではひとりで35得点をマーク。マルチな活躍ぶりで、瞬く間にチームの大黒柱になった。
序盤は好調な滑り出しを見せていたが、その後はアウェイゲームでリズムを崩して8連敗を喫するなど、調子の波が激しく上下。前半戦を11勝17敗と負け越して、シーズンを折り返す。ロスター全員を入れ替えて作ったチームだけに、安定感を欠いてしまうのはやむを得ないことだった。
アーリーエントリーで相馬、畠山が加入
プレイオフは滋賀に惜敗を喫する
後半戦に巻き返しを期して、ロスターの入れ替えを敢行。外国籍選手は直前まで群馬クレインサンダースで中心選手としてプレーしていたビッグマン、ダルコ・ジョハダレヴィッチと、ガードのプレーヤーであるディアンドレ・ベルを獲得する。そしてクラブで初めてアーリーエントリー制度を用いて天理大の相馬卓弥、青山学院大の畠山俊樹が入団した。ベテラン揃いだった日本人選手にフレッシュなふたりが加わり、チームに新鮮な風が吹いた。途中加入ながら相馬は24試合に出場し、3Pは35.4%と高い成功率を記録。関西学生リーグ屈指のアウトサイドシューターである実力を、プロの舞台でも発揮した。一方の畠山はガロウェイ、ベルとガードの外国籍選手がいたこともあって、出場は10試合にとどまる。しかし要所でポイントガードとして光るプレーを見せ、明誠高3年次にウインターカップ優勝、青山学院大2年次にインカレ優勝と王道を歩んできた才能の片鱗を覗かせた。
それでもゼロから組み立てたチームを熟成させるには時間が足らず、シーズン終盤は高松ファイブアローズ、大分ヒートデビルズとプレイオフ進出圏内の6位を巡る戦いになった。レギュラーシーズンの閉幕が近付いた4月10・11日に、ホームで高松と直接対決。ここで連勝して一気に優位に立ちたいところだったが、GAME1は2点差、GAME2は6点差と、ともに僅差で敗れて高松に1ゲーム差にまで詰め寄られる。しかし最終盤に3連勝を飾り、24勝28敗でウエスタンカンファレンス6位の座を死守。2シーズンぶりのプレイオフ進出を果たした。
プレイオフファーストラウンドは、ウエスタンカンファレンス3位の滋賀レイクスターズ(現レイクス)が相手。敵地である、野洲市総合体育館に乗り込んだ。5月3日のGAME1は77-54で快勝したが、翌日のGAME2は残り1秒で相手の逆転シュートを浴びて、66-67と1点差での惜敗。5分ハーフで行われたGAME3は滋賀の勢いが勝り、それを止めることができずに16-33で敗れ、2010-11シーズン以来の有明行きが果たせずにシーズン終了のブザーを聞くことになった。試合後に東頭HCは「滋賀がブースターと一体化した、良いゲームをしました。第3戦の準備はしてきましたが、最初のシュートが入った滋賀と、入らなかった大阪とで流れが決まりました」と唇を噛んだ。
クラブ10周年の2014-15は東頭HCが続投、
成長した今野が2シーズンぶりの復帰を果たす
翌2014-15はbjリーグ、エヴェッサがともに10周年を迎えた節目のシーズン。HCは前季に続いて、東頭俊典が続投した。外国籍選手は前季と同様に、全員が入れ替えとなった。滋賀、ライジング福岡に在籍経験があり、リバウンドに強いゲイリー・ハミルトン、前福岡のセス・ターバー、ともに日本でのプレーが初めてとなるジョナサン・クレフト、ジョシュア・ドラードが新加入。
前季の教訓を活かして、日本人選手は石橋、仲村、佐藤、相馬、畠山と多くが残留。ここにルーキーの西裕太郎が加わった。そしてこのシーズンのロスター編成で最大のトピックスとなったのが、今野の2シーズンぶりの復帰。信州で得点を獲るポイントガードという新しい役割を自分のものにし、ひと回りもふた回りも成長した姿で帰ってきた。
復帰に際して今野は「エヴェッサの10周年という節目の年に、選手としてこのチームでプレーできることを誇りに思います。自分はチームが3連覇したルーキーシーズンはほとんど試合に出場していませんし、やはり自分のプレーでチームに優勝という結果をもたらせたいです。今季はルーキーのころの思い、ここ何年も行けていない有明への思い、そしてブースターさんの思い。そんな、いろいろな思いが詰まったシーズンですので、とにかく結果を追求していきたいです」と、強い思いを露にした。このシーズンは石橋とともに、キャプテンを務めることにもなる。
シーズンが幕を開けると、ホームで行った福岡との開幕戦こそ勝利するが次戦から4連敗。プレシーズン中に外国籍選手にケガ人が相次いでチーム作りに若干の遅れが生じたことに加え、開幕してから毎週のように故障者が発生する悪循環に陥ってしまったことが、その原因。開幕6戦目にしてようやく全員が復帰し、開幕から負けがなかった滋賀にシーズン初の黒星を付けた。90-66の快勝を収めて東頭HCは「全員が揃って、やりたいバスケットができた。ようやく、開幕した気分」と満足気に試合を振り返った。
実質的にプロ1季目の畠山が主力ポイントガードに定着し、同じく前季にアーリーエントリーで加入した相馬が持ち味のアウトサイドの得点力を発揮。新加入のドラードがエースの働きをして、シーズン前半戦を15勝11敗で折り返した。
この2014-15シーズンは2月にアーリーエントリーで近畿大の橋本尚明を迎え入れた以外は、ロスターの入れ替えは行われなかった。橋本は近畿大4年次に西日本選手権、関西学生選手権、関西学生リーグで優勝と錚々たる実績を積んでいた。大事な場面で仕事を果たすプレーはもちろん、飄々とした性格でチームメイトに愛され、オフコートでもチームのムードメーカー的な存在になっていった。
リーグのレベルが向上したなかで食らい付き
プレイオフ進出を果たすも、有明行きはならず
初年度に6チームから始まったbjリーグは、このシーズンに3倍以上の全22チームへと拡大。10年の歴史を重ねるごとに、リーグ全体のレベルも向上していった。このころのウエスタンカンファレンスは京都ハンナリーズ、琉球、浜松・東三河フェニックスが3強を形成。エヴェッサは滋賀、島根スサノオマジックと並んで、その次のグループに位置する存在だった。3連覇を果たした草創期とは、リーグの様相が大きく変わっていた。シーズン後半は奮闘するも、爆発力に欠けていた面は否めない。後半戦は13勝13敗と、星勘定は五分にとどまる。一時はウエスタンカンファレンス4位に迫る時期もあったが、最終的には28勝24敗と前季より勝敗の数を入れ替え、5位でレギュラーシーズンを終えてプレイオフに向かうことになった。
プレイオフファーストラウンドの相手は、前季に続いて滋賀。相手のホームである、滋賀県立体育館で対戦した。5月2日のGAME1は前半に6点のリードを築いたが、第3Qにまさかの33失点。これが大きなダメージとなって、69-93で敗れる。翌日はGAME2に勝って、GAME3に持ち込むと意気込んで臨んだ。第1Qこそ24-24のタイスコアで滑り出したが、以降のクオーターはいずれも滋賀に20失点以上を喫し、得点は10点台にとどまった。68-93で星を落とし、またも有明行きはならなかった。
試合後に東頭HCは「今日、勝ったチームが強いということです。我々は出た選手も含めて、ケガ人が多いなかで、みんながギリギリまで調整してくれました。そのことを、誇らしく思います。また、アップダウンの激しいシーズンを、最後までいっしょに戦ってくれたブースターのみなさんには、本当に感謝しています」とコメントした。
復帰を果たした今野は日本人スコアラーとして躍動し、このシーズンは1試合平均12.4得点を記録。これは彼が2021-22シーズンを最後に引退するまで、キャリアハイの成績だった。また相馬はレギュラーシーズン52試合中40試合に出場して、1試合平均10.1得点、3P成功率37.9%をあげて新人賞を獲得した。
(文/カワサキマサシ)