2007-08 絶対的な大黒柱の長期離脱を乗り越えて
bjリーグ史上唯一の3連覇を達成
圧勝続きの開幕5連勝 今季は全勝する手応えだったが……
2007-08は、連覇を果たした前季のメンバーがほぼ残留。顔ぶれは日本人選手が石橋晴行、仲村直人、波多野和也、佐藤浩貴、宍戸治一、中村友也、田村大輔。そして大阪学院大出身の新人、今野翔太がドラフト外で入団した。退団したのは1季目からアウトサイドシューターとして、チームの得点源になっていた城宝匡史と、前季にルーキーで入団して17試合に出場した斉藤資。城宝は東京アパッチが保有する仲村との優先交渉権とのトレードで東京へ移籍し、斉藤は現役を引退して教職の道に進んだ。
外国籍選手も大黒柱のリン・ワシントン、マット・ロティック、ジェフ・ニュートンの主力が残留。しかし前シーズンにMVPを獲得したデイビッド・パルマーは、NBAの下部リーグであるNBDLに挑戦するために退団してしまった。その穴を埋めるべく、大分ヒートデビルズでオールラウンダーとして活躍していたマイキー・マーシャルを獲得。さらに新潟アルビレックスB.B.でプレーしていた、197cmの韓国人選手ハン・チェギュも新たに加わった。
bjリーグはこのシーズンからライジング福岡、琉球ゴールデンキングスが新規参入した。チーム数は10となり、東西の地区制を導入する。エヴェッサはウェスタンカンファレンスに振り分けられ、全44試合のレギュラーシーズンを経て、3度目の頂点に挑むことになった。
シーズンは10月30・31日に新規チームである福岡のホームに乗り込んで戦い、危なげなく連勝発進。翌週のホーム開幕戦は高松ファイブアローズを、なみはやドームで迎え撃った。前季のファイナルで対戦した相手にも連勝し、続けてのホーム開催となった11月17日の守口市民体育館での東京戦も、高松との第2戦から連続での100得点越えとなる111ー80で快勝。30点以上の大差をつけて勝利した東京戦の試合後に、天日謙作ヘッドコーチ(HC)は「なにも言うことがない」と満足気に試合を振り返った。
この試合に今野が途中出場でコートに立ち、プロデビューを果たした。慣れないスポーツコートに足を滑らせながら、ルーキーらしく全力でプレー。試合後には「緊張はしませんでした」と強がりながら、「自分のプレーははっきりと覚えていて、納得していません。練習でできていたことが、試合でできなかった。お客さんの歓声が気持ち良くて、少し気負ってしまったところがあったかもしれません」とコメントを残した。これがのちにプロ通算15シーズンのキャリアを重ねる彼の、第一歩だった
チームはこれで5連勝。開幕早々から圧倒的な強さを発揮するチームに、3季目の指揮を執る天日HCらコーチ陣は「今季は全勝できるのではないか」と口にし、相当の手応えを得ていた。しかし……。
想定外の大きすぎるアクシデント エースが全治4ヶ月の大ケガを負う
翌日の東京との第2戦、試合が始まって、4分ほどが経過した時間だった。ワシントンが、相手選手と接触してコートに倒れ込む。起き上がることができず、演出の音楽が止まった会場内にはワシントンがあげるうめき声だけが響き、場内は凍りついた。絶対的エースが試合中に救急搬送された異常事態に直面し、エヴェッサ側は動揺が隠せない。それでも残ったメンバーは気丈に戦い、試合終了間近までリードを保つ。だが残り0分15秒で追い付かれると、跳ね返せる気力はもう残っていなかった。80ー83で、シーズン初の黒星を喫する。試合後、天日HCは沈痛な表情で試合をこう振り返った。
「あのアクシデントがなければ、今日も100点ゲームができるくらいの内容でした。それでもスコアラーが抜けたなかで、チームはよく頑張った。リンが担っていたパートは、ほかのだれでもできるものではありません。その穴を埋められるように、みんなに頑張ってほしい。僕たちコーチ陣もこれからの練習で、今までとは違うフィニッシュの形を作っていく必要があります。大きなアクシデントですが、逆にこれをチャンスと捉えて全員にハッスルしてもらって、ステップアップの機会としたい」
病院についても試合のスコアを気にしていたワシントンは、右ヒザに複数の損傷が認められ、全治4ヶ月の診断が下された。順調に回復すれば、シーズンの終盤戦に間に合う。チームはそれを願い、エース不在のなかで戦い抜くしかなかった。
ジェネラル(将軍)と異名されるほどの大きな存在を欠いたが、チームは失速しなかった。直後の富山グラウジーズとのアウェー戦で連勝。その次もアウェーで新潟アルバルクB.B.と戦い、ここでこそ連敗を喫したものの、翌週にホームに戻ってからは破竹の9連勝を達成する。
ワシントンが抜けて高さに振りが生じたなかでも、自分たちの“走るバスケ”を貫いた。新加入のマーシャルがアップテンポな攻撃を牽引し、戦っていく過程で波多野、仲村ら日本人選手が着実にステップアップしていったことが、チームが崩れなかった要因である。
しかし2月の半ばから調子を落とし、黒星を喫する試合が増えてくる。ワシントンの欠場と1月で中村との契約を満了したことで、そもそもロスターが少ない。それにルーキーの今野をはじめ、スターティングメンバーとベンチメンバーに力量差があることは否めず、一部の選手の負担が大きくなってる。彼らの蓄積疲労から、チーム全体のパフォーマンスが低下してしまうのは、やむを得ないことだった。それでも天日HCは「ウェスタン・カンファレンス1位でプレイオフに行く。それしか目指していない」と、強気の姿勢を崩さない。
守口の悲劇から4ヶ月 ついにジェネラルが帰ってきた
そして、あの事故から4ヶ月。3月22日にホームの堺市金岡公園体育館で行われたライジング福岡戦で、ついに“将軍”が帰還を果たした。試合はオーバータイムにもつれ込む接戦で、復帰初戦ながらワシントンは延長でもプレー。しかし試合は延長の残り0分14秒に失点を喫し、最後の攻撃も成功せず敗れてしまった。試合後にワシントンは「ここまで、本当に長かった。試合に出られたことは良かったが、勝てなかったのは残念だった」と、偽らざる本音を口にする。また、天日HCはワシントンのプレーについて「復帰後、最初のゲームにしてはパフォーマンスも良かった」と一定の評価を与えた。
ワシントンの復帰初戦は接戦の末に白星を逃したが、ここまでのシーズンで苦しい戦いを余儀なくされていたチームに、光が差し込んだ。その明るさをたとえるなら、まるで太陽のような輝きだった。
ワシントンはその後も試合に出続けることでコンディションを整え、ゲーム感覚を取り戻していくことを選択。そんななか、3月30日にアウェーで戦った高松戦は、まさに激戦だった。ウェスタン・カンファレンスの首位を争う両者の対決は、40分間を戦っても決着がつかずオーバータイムに入る。ここでも勝敗が決まらず、ダブルオーバータイムに。しかし終盤にワシントンがファウルアウトで退場してしまった影響もあり、残り0分01秒で追い付かれてしまい、ついにトリプルオーバータイムにまで突入する。
チームの中心を欠いたなかでも、残ったメンバーで奮闘。ワシントンの長期不在を経験してきただけに、チームに慌てる様子はない。ニュートンがダンクを叩き込み、ロティックが3Pを沈めるなどで高松を引き離し、117-113で熱戦を制した。試合後に天日HCは「延長を繰り返しても、つねにアグレッシヴに攻め続けられたこと。リン(ワシントン)が抜けても、インサイドを攻めることを徹底できたこと」と勝因をあげた。
この劇的勝利を含めて最終盤の5試合を4勝1敗で駆け抜け、シーズンを通じては31勝13敗。高松をわずか1勝差で上回り、ウェスタン・カンファレンス1位でプレーオフ進出を果たした。
4月13日にレギュラーシーズンの最終戦を終え、プレーオフが開幕するまで約3週間のインターバルが生じる。これが始めてのことなら、どう調整するのか、いかにゲーム感覚を保つのかなどいくつも不安が生じる。しかし昨季も同じようなスケジュールでV2を果たしたエヴェッサに、その懸念はない。
「試合間隔が空くので、コンディションの調整は大事。1季目は約2週間だったのでいいリフレッシュにもなりましたが、昨季からさらに間隔が延びた。その間にプレーの感覚や選手の体調をどう調整していくか。過去2季でそれを経験しているのは、僕らのアドバンテージになります」(比嘉靖アシスタントコーチ)
「プレイオフだからといって、そのために新しいことをするのではなく、シーズンでやってきたことを徹底する。そのほうが、選手は集中できる。自分たちの形ができているなら、それを貫くのがいいバスケットをするのに、もっとも適した方法だと思っています」(天日HC)。
3季連続の有明に到達 「有明は僕らのホーム」
ゴールデンウイーク真っただ中の5月3日。エヴェッサは3度目の有明コロシアムに乗り込んだ。初戦となるウェスタン・カンファレンスファイナルの相手は、ワイルドカードゲームを勝ち上がってきた、ウェスタン・カンファレンス2位の福岡。一抹の不安があるとすれば、過去2シーズンともプレーオフ初戦は苦戦したこと。「過去2シーズンのプレーオフで、ゲーム勘ってあるんだなと思いました。昨季のセミファイナルの大分戦は、最初の5分くらい点が入らなかった。どうなっているんだと思いましたが、大分もシュートタッチが良くなかった。それが、そういうことなんでしょうね。そんななかで大事なのは、どれだけスムーズに自分たちの形に入っていけるか。選手が流れに乗ってフィーリングをつかめば、あとは普段のゲームと同じように進めていけるんですけどね」(天日HC)
指揮官の胸の内にあった少しばかりの心配は、杞憂に終わる。試合は序盤からエヴェッサが主導権を握り、第1Q終了時点で18ー17とふたケタ得点差のリードを築く。そこからも攻撃の手を緩めず、100点ゲームとなる100-73で勝利した。
スコアだけを見れば完勝だが、負ければ終わりの一発勝負。それに2連覇を果たしてきた王者が、レギュラーシーズンでウェスタン・カンファレンス3位ながら、20勝24敗と負け越している福岡を相手に絶対に負けられない。チームが抱えていたプレッシャーは、想像に難くない。この試合後の天日HCのコメントに、それがにじみ出ていた。
「ベンチも選手もしんどい試合でしたが、最後まで集中してやれました。やっと、ここまで来たというのが本音です。本当に、長かった……。明日は今季で、いちばんのゲームができるようにしたい。疲れているなんて、関係ありません。選手たちも、全部を出し切ってくれるはずです。これまでプレイオフは無敗で、有明コロシアムは僕たちのホームだと思っています」(天日HC)
一夜明けてファイナルの相手は、ワイルドカードから勝ち上がってきた東京。レギュラーシーズンでワシントンが長期離脱を余儀なくされた相手だが、遺恨はない。だれもがただ単純にこの試合に勝利し、3度目の頂点をつかむことしか考えていなかった。
ファイナル特有の緊張感からか、序盤からともに大きくスコアを動かせない。第3Qを終えて44ー41でエヴェッサがわずか3点リードと、タイトな展開が続く。ゲームの流れがエヴェッサに傾いたのは、第4Qの中盤を迎えるころだった。ワシントンがインサイドで得点を重ね、ファウルで得たフリースローも沈めて加点。残り0分30秒の時点で7点のリードを築き、勝利へ大きく近付く。その後フリースローで3点を追加し、ほどなくして試合終了のブザーが鳴った。66ー56で勝利。その瞬間にボールを保持していたマーシャルはそれを高く放り投げ、コート上にはベンチから飛び出してきた選手、コーチ、スタッフらが加わって大きな輪ができる。だれの顔にも、笑顔が浮かぶ。それは弾けんばかりであったが、どこかに苦難を乗り越えて勝利を勝ち取った、安堵のようなものも混じっていた。
Bjリーグ史上唯一の3連覇達成 MVPにはワシントンが選出される
試合後にシーズンMVPが発表され、ワシントンの名前が場内にコールされた。それを受けて“将軍”は涙ぐみながら、こう話した。「最高の気分だ。バスケットがプレーできる幸せを、あらためて感じている。この勝利はチームがひとつになったからこそ、得られたもの。ケガでチームを離れている間は怒りや孤独を感じたが、いつもそばにチームメイトがいてくれて助けられた。正直なところ、チームの全員がMVPだと思っている。僕はチームを代表して受け取っただけ。復帰までの過程は辛いことも多かったけどチームメイトにも、ファン・ブースターにも絶対に3連覇すると約束した。そのことが、自分の支えになった」(ワシントン)
個人部門ではマーシャルがベスト5に選出され、仲村が91・0%で最高フリースロー成功率、ニュートンが1試合平均3・4で最多ブロックショットのタイトルを獲得。波乱に満ちたシーズンだったが、エヴェッサはこうして後にも続くbjリーグの歴史で唯一となる3連覇を達成し、王朝=ダイナスティを築いたのだった。